ドン R. ギブソン著
Toss 'n Talk は、レベルの異なる生徒が混じるEFLクラスでも使用可能な、活発な会話を持続させることを目的としたカードゲームです。生徒の参加を促し、協力意識を高め、やる気を掻き立てるのに有効な、生徒中心のアクティビティです。本論では、Toss 'n Talk の基本会話パターンと、具体的なゲームの進め方について説明しています。
われわれEFL教師にとって授業での難問の一つは、どうすれば生徒にとって実のある会話を続けさせることができるか、ということです。一般的な英語テキストに収録されている会話アクティビティは、往々にしてお決まりの形式にとらわれ過ぎていて、生徒の興味を持続させることも、創造力を発揮させることもできません。かといって、トピックベースのテキストに見られる(生徒の自主性に任せるような)自由なアクティビティは、英語レベルの低い生徒に威圧感をあたえ、喋ることに消極的にさせてしまいます。レベルの異なる生徒達から成るほとんどの混成クラスにおいて、習熟度の低い生徒は自信を失っていたり、レベルの高いクラスメートに引け目を感じてしまっていることが多いのです。このような事態は「フリーカンバセーション」や小グループでのディスカッションに参加するよう言われ、そして教師による進め方の指示やアドバイスもほとんどなしに、既に学習した表現を使うよう言われた場合などに特に顕著です。
Toss 'n Talk カードゲームは、英会話の練習を妨げる障壁を取りはらうべく、私自身の経験をもとに、同僚と協力して開発しました。活発な会話の飛び交う、生徒中心のアクティビティを実現することができるカードゲームで、同僚の考案したQRF(質問・反応・フォローアップ質問)会話パターンに基づいて作成されています(V. ハンスフォード、パーソナルコミュニケーション、2000年10月V. Hansford, personal communication, October 2000)。習熟度の低い生徒でも、クラスメートとスムーズに会話させることができます。
ゲームを開始する前に、このカードゲームのベースとなる基本会話パターンについて生徒に説明しておく必要があります。私はこのゲームを90分もしくは45分授業で行ってきましたが、QRFパターンの説明には大抵20分ほど費やしています。ゲームを行う教師は、自身の授業スタイルや生徒のレベルに合わせて説明の仕方を変えねばなりません。例えば、生徒がゲームの中で実際に会話パターンを使う前に、Q・R・Fについて一項目ずつ説明し、それぞれ別々に練習させるようにしても良いでしょう。
まず、「これからQRFという会話パターンを練習します」と生徒に伝えます。「QはQuestion(質問)の意味で、質問によって会話のTopic(トピック)が明らかになります」と言い、黒板に“Question=Topic”と書きます。Topicという語を使うのは、ゲーム中にカードで目にすることになるからです(添付資料参照)。それから、会話のトピックは質問に含まれているということを明確にするために、黒板に書いたQuestion=Topicを指さしながら、次のような典型的な質問の例を示します。
つづいて「質問をすれば、Answer(答え)が返ってきます」と言い、“Answer”と黒板に書きます。それからまた黒板上のQuestionを指しながら質問を繰り返し、今度はAnswerを指しながら以下のような回答の例を示します。
「このように質問に対して答えが返ってきたら、それについてResponse(反応)することで関心を示します」と説明します。つづいて、典型的な反応をいくつか黒板に書きます(“Oh, really?”, “I see.”, “Wow!” など)。また、別な反応として「Echo(エコー)」(相手の答えに含まれたキーワードを復唱する)という方法もあることを教えます。「この会話パターンで練習する反応はエコーです」と言い、黒板にResponse=Echoと書きます。ここでEchoという語を使うのは、“Topic”と同じく実際のカードに書かれているからです。次に、黒板上の対応するフレーズ(Question=Topic, Response=Echo)を指しながら三つの質問・答え・反応を繰り返すことで、完成した会話パターンの例を示します。このようなプロセスを踏むことで、生徒はパターン中の各要素がどのように組み合わされるのかをイメージしやすくなるのです。
これは生徒にとって、イントネーションがいかに言葉の意味に影響するのかを学ぶのに大変良い方法であり、返ってきた答えに対して正しいイントネーションで反応する練習にもなるのです。
次に、「会話を途切れさせないための一番の方法は、Follow-up question(フォローアップクエスチョン)をすることです。これは同じトピックについてもっと詳しく訊くための質問です」と教えます。そして黒板に“Follow-up question”と書き、これまでと同じく個々の要素を指し示しつつ例示してゆきます。
QRFパターンのこの時点において、新しい答えをエコーし、別のフォローアップクエスチョンをすることで会話を継続することができるのだ、ということをはっきり説明しておきます。
QRFパターンを構成する最後の要素は「How about you?+Question(あなたはどう?+質問)」です。「これは話し手を変えたい時に使います」と説明し、黒板に“How about you?+Question”と書きます。ネイティブは必ずしも“How about you?”の後に質問をするわけではありませんが、まず生徒に会話の焦点がどこにあるのかを把握しておいてもらいたいので、このように指示するのです。例えば以下のようになります。
最後の質問 “Where are you from?” は、会話のトピックは野球ではなく出身地なのだ、ということを再認識させる目的があります。
最後に、各要素を指し示しつつ、QRFパターンの完成例を示します。
(Q): Where are you from?
(A1): I'm from Seattle.
(R): Seattle? (F): Do you like the Mariners?
(A2): Yes, I do. (H+Q): How about you? Where are you from?
(A3): I'm from Saitama.
(R): Saitama? How long does it take you to get to school?
(A4): About two hours.
このようにして、QRF会話パターンは続いてゆきます。
QRF会話パターンの説明を終え、生徒達が呑み込めたようであれば、いよいよToss 'n Talkカードゲームの準備に取り掛かります。手順は以下の通りです。
下記の例は、ゲーム中どのカードがどの時点で使用されるのかを示しています。プレイヤーはEriko, Taro, Mari, Kenの四人です。Mariがゲームを始める役として選ばれました。
MARI: The topic is sports. What kind of sports do you like, Ken?
KEN: I like baseball.
TARO: (Echoカードを使う)Baseball?(Follow-up Question カードを使う)Can you play baseball?
KEN: Yes, I can.
ERIKO: (Echo カードを使う)Oh really?
MARI: (Follow-up Question カードを使う)How often do you play?
KEN: Oh, about once a month.(How about you? カードを使う)How about you Mari? What sports do you like?
MARI: I like tennis. I play tennis two or three times a month. I belong to a tennis club.(How about you? カードを使う)How about you Eriko? Do you like sports?
ERIKO: No, not really. But I watched the World Cup with my friends.
TARO:(Topic カードを使う)New topic. Let's talk about part-time jobs. Do you have a part-time job Mari?
MARI: Yes, I do.(How about you? カードを使う) How about you Ken? Do you have a job?
KEN: Yes, I do.
TARO:(Follow-up Question カードを使う)What do you do?
KEN: I'm a waiter.
MARI:(Topic カードを使う)New topic. Where are you from, Eriko?
ERIKO: I'm from Osaka.
TARO:(How about you? カードを使う)How about you Mari? Where are you from?
二人のプレイヤーのカードが全て無くなるまで(上がりになるまで)ゲームを続けます。
Toss 'n Talk カードゲームは、EFLの授業における補助的なアクティビティとして効果的です。実際に授業で試された先生方からは、生徒のやる気や参加意欲が大幅に向上したとの感想をいただいています。異なる習熟度の生徒同士でも、このやり方なら共通して興味のあるトピックについての会話を楽しむことができるのです。また、QRFパターンの内容を充実させることで、生徒は素速く考え、注意深く聴きとり、自然に話すための能力をさらに上達させてゆくことができます。こうした能力は、テキストブックの内容にとらわれず、実際の会話で自然な英語を話せるようになるためには不可欠なスキルなのです。
Topic カード1枚・Echo カード4枚・Follow-up Question カード4枚・How about you? Question カード4枚から成るセットを、生徒一人につき一組用意します。
トピックを変えるために宣言をし、新しいトピックについて質問をする。
(“The new topic is…)
キーワードを復唱する。
より多くの情報を聞き出すために質問をする。
トピックについて他の生徒に質問する。