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「コミュニケーションサークル」で育成する自信に満ちた話し手

トーマス C. アンダーソン著

二十一世紀をむかえ、日本の英語教育は他の国々と同じく、英語を「コミュニケーションツールとして使えるようにする」ことに焦点を当てるようになりました。英語コミュニケーション能力の育成が絶対必要であることはほとんどの教育者が認識していますが、生徒が消極的で依存心が強く、リスクを嫌い、授業に熱心に取り組んでくれないという嘆きを共有してもいるのです。

本論ではまず、日本の英語教育者に総じてみられる四つの問題点を指摘します。続いて、「コミュニケーションサークル」と呼んでいる私の英会話カリキュラムの中核をなすアクティビティをご紹介したいと思います。このアクティビティは容易に準備・運用でき、様々な機能を備えています。まず生徒は、少しずつ英語でコミュニケーションできるようになっているのを実感することで、自信を深めることができます。また教師にとっては、便利な診断ツールとなります。生徒同士の会話を注意して聴くことで、問題点を発見しやすくなるのです。新しく教えたばかりの語彙や文法を実践させてみることもできます。うまく授業の始めに組み込むことで、生徒をリラックスさせて集中させると同時に、その後に続くアクティビティにも良い波及効果をおよぼしてくれます。

二十年ちかく日本で英語を教えているうちに、私はこの国の英語教育者が共通する四つの問題点を抱えていることに気がつきました。第一に、多くの教師は自身の授業内容について、精神的に「守り」に入り過ぎているように思います。われわれネイティブ英語教師は(意識的にも無意識的にも)授業中のプログラムすべてを通じて、自分自身と日本人に対して「ただのガイジンの先生」ではないことを証明しようと躍起になっているように思えるのです(日本で生活する金を稼ぐためだけに英語教師をやっていると思われているのではないかという、目に見えないプレッシャーから)。カンフェレンスでのプレゼンや講座において、われわれは幾度となくそういったあら探しをしようと待ち構えている手厳しい会員を前にして、冷や汗をかいた経験があるはずです。

第二の問題は、教師が次から次へと新しい教授法の「流行」を追いかけざるを得ない、という風潮です。コンテンツベースの学習、コミュニケーションベースの教授法、CALL、沈黙式教授法、映像の活用、そして最近のlearner autonomy(学習者の自主性を尊重する指導法)はそうした「流行」の例として挙げられます。われわれ教育者はあたかも、今採用している指導法を棄ててすぐさま最新の「教育ソリューション」に移行しなければ、罪の意識を感じたり、自分が「プロフェッショナルな」教育者ではないかのように錯覚してしまいがちです。

第三の問題は、日本において英語教師はあらゆる面において、万人を満足させなければならない、と考えられていることです。「優秀な」先生の「やらねばならないこと」には際限がありません。問題は、もし本当に「やらねばならないこと」を生真面目に全てやろうとすれば、われわれはすぐに燃え尽きてしまうだけでなく、仕事以外のプライベートな生活をすべて犠牲にしなければならなくなってしまうことです。

この「死ぬまでやるべきだ」に加えてもう一つ、(政治的に間違っている、というそしりを受けることは承知の上で言いますが)社会問題を教えることにとり憑かれてしまっている教師がいる、という問題があります。もちろん、決して環境問題・男女同権・民族平等主義・平和教育・紛争解決などについて啓発する事が大切ではない、と言っている訳ではありません。しかし、「社会問題」ではない事柄がすべて過小評価されたり、無視されてしまうのは問題です。われわれ教師が授業に自身の政治思想をもち込んで、生徒達にとって重要な音楽・人間関係・スポーツ・流行等の話題を無視してしまうのはどうでしょう?また、教育指導と啓蒙活動とを混同してしまう危険性についても考慮されねばなりません。

最後の問題は、生徒が消極的で自立心に乏しい・授業で求められる最低限のノルマ以上の努力をしようとしない…等々、みなさんお馴染みのものです。日本の英語教育の現状を例えるならば、次のようになるでしょう。“われわれ英語教師は「四角い杭」である生徒を、丁寧な分析と繊細な配慮をもって、彼らにぴったりの「四角い穴」を造ろうとはせず、思うさま彼らを切り刻んで現状の英語教育という「丸い穴」に無理やり押し込めようとしている。”
現在日本の教室で行われている英語教育を改善するためには、この事実を大前提としなければなりません。

それでは、以上の全てを考慮した上で、いまや私の英会話カリキュラムの大黒柱となっている「コミュニケーションサークル」についてご説明しましょう。この自由にカスタマイズできるアクティビティは、簡単な準備だけで教室の内外で実施することができます。成功をあくまで追求し、生徒のやる気をおおいに掻き立てることができるため、実際に行ってみれば様々な良い波及効果が生じることがわかります。このアクティビティの産み出すポジティブな活気は、他のありふれたタスクやアクティビティにもそのまま引き継がれるのです。基本的に、生徒が主役のアクティビティです。

コミュニケーションサークルは、できる限り現実の会話に近づけた、台本のない一対一の英語によるコミュニケーションを行います。教師はあまり介入せずに「中立地帯」に居ることができますし、生徒の問題点を見つける診断ツールとしても活用できます。しかし何よりの利点は、このアクティビティを実施することで生徒を落ち着かせ、集中させることができるということでしょう。

初めて行う場合、まず生徒を二つのグループに分けます。第一のグループは二列で二つの円を作り、外円の生徒と内円の生徒を向き合わせます。第二のグループは直線二列に並ばせ、互いに向き合うような形をとります(教室のサイズや形にもよる)。生徒数が奇数の場合はグループを三つに分けるか、先生がスピーキングパートナーとして参加するようにします。

学期の四分の一から半分あたりまでは、下記のような決められた「イントロダクションパターン」に乗っ取ってコミュニケーションをスタートさせるようにしましょう。

S1: Good morning/Hi. (時間による)
S2: Good morning/Hi.
S1: (自分を指し) I'm __________. (名前をゆっくり、はっきりと話す)。
And you are? (パートナーを指す)
S2: __________. (フルネーム)
S1: Nice to meet you.
S2: Nice to meet you, too.S1S2が握手する)

私は生徒にこのルーティンをさせている間、いつもアイコンタクト・ボディランゲージ・ジェスチャー・しっかりイントネーションを付けること・握手の強さに至るまで注意をうながすようにしています。一度ルーティンを終えたらもう一度繰り返させ、その後にはじめて「自分の町について」などのテーマを与え、本格的に会話させるようにします。

初めてこのようにトピックを与えられると、生徒は一瞬静まりかえりますが(生徒のレベルにもよる)、そのうち何人かの勇気のある生徒が少しずつパートナーに話しかけだすでしょう。ふつう私は短い時間(20〜30秒ほど)で区切り、最後にパートナーに“thank you”と言うように指示します。グループの中の一人が左(もしくは右)にずれ、また一連のプロセスを繰り返します。最初の頃はトピックは二つだけにしておき、それぞれ二回繰り返させることで生徒が四人と会話できるようにします。学期が進むにつれて会話の時間・パートナーの人数・トピックの数を増やして行きます(大抵、生徒は最終的にそれぞれ三つのトピックについて九人の生徒と話し合えるようになります)。

コミュニケーションサークル初体験が終わったら、感想報告会を行います。そこでは、今おこなったアクティビティの重要さを強調します(あなたがパートナーに何かを言い、パートナーは注意深く聴き、それについて返事をしてくれた。これこそが英語のコミュニケーションなのだと)。生徒はしばしば、自分は本当に英語でコミュニケーションできたのだ、という事実に驚きます。中にはすでに六年間英語教育を受けてきたのにも関わらず、初めての経験だ、という生徒もいます。

二回目のコミュニケーションサークルを実施する前に、生徒に「円滑なコミュニケーションのための八箇条」を記したプリント(付録参照)を配ります。それに基づき、次からは各授業ごとに、生徒がグループをつくる前に一箇条ずつ練習するようにします(同時にそれ以前に学習したことの復習もおこなう)。そして、これらのポイントは、生徒を観察したりスピーキングテストを採点したりする際に、常に気をつけて見ている重要な点であることを強調します。

生徒はパートナーと何について話すのか?何についてでもOKです!私はこれまで、様々なトピックについて話をさせてきました。相撲・たまごっち・携帯電話・友達・デート、それから英会話の先生についてまで!先生がトピックを与えてもよいですし、生徒を小さなグループに分け、ブレインストーミングによって決めさせてもよいでしょう。それから黒板にそれぞれ自分たちのグループのアイデアを書きだし、出そろったトピックリストの中からクラスの総意として三つだけ選ばせるようにします。学期の終わりごろには、「フリートピック」(話したいことを何でも話してよい)を与えることもあります。

私は極力、現在学んでいるテキストのテーマ・語彙・文法構造と関連したトピックを選ぶようにしています。例えば、テキストが旅行を扱っている場合、「一度はしてみたい旅行」「楽しかった旅行」「海外旅行」などをトピックにするのです。生徒のレベルが低い場合は、参考にできるように文例(例えば"where did you...?"と当てはまりうる語彙の例)をいくつか黒板に書き出しておくと有効です。時おり生徒は「この日本語の単語や表現は英語ではどう言えばよいのか」と尋ねてくることがありますので、それらも一緒に黒板に書いたり、アクティビティの合間に教えるようにしましょう。

生徒を観察する時には、共通の誤り(例えば "go to shopping" "What do you like food?" "play snowboard" など)を見つけ、アクティビティの合間に指摘するようにします。こうした情報は、復習レッスンを計画する際にも役立ちます。

私は英会話クラスの生徒に、スピーキングテストを四半期に一度実施しています(各学期二回、一年コースなら四回)。テストを行うに当たり、生徒は自分と組むことになるパートナーと、テスト時間は五分間であるということを、かなり前から教えられます。そしてテストに出題される可能性のある十のトピックが、今までにコミュニケーションサークルで取り上げたものの中から選ばれます。生徒はそれらをメモしておきます。私は普通、「一回のテストでは、二つか三つのトピックを出題します」と言っておきます。また復習用のコミュニケーションサークルを一回か二回おこないます。その時はテストと無関係の新しいトピックではなく、テスト用のトピックのいくつか(もしくは全て)について話させるようにします。さらに、テストの準備方法として、次の二つを繰り返し生徒に薦めましょう。一つは、各トピックにおいて使えそうな語彙やQ&Aパターンのリストを作ること。二つ目は(より重要なのですが)、授業外でもパートナーと何度か会い、トピックに関して英語で会話する練習をすることです(コミュニケーションテストのための一番の勉強法は、もちろん出来るだけ沢山英語でコミュケートすることです!)。

ここでひとつ質問があります。「生徒が日本語を話してしまったら、あなたならどうしますか?」授業が始まったばかりの頃(その後も折りにふれ)、私は生徒に「日本語を話していては、英語でものを考えたり上手くコミュニケーションできるようにはなりません」と伝えます。また、「自分一人が日本語を使うことは他の生徒の邪魔をし、英語で考えることを妨害することになるので、自己中心的な行為です」と、はっきり言い聞かせます。しかし生徒がコミュニケーションをしている最中は、叱責したい気持ちを極力抑え、明るく振る舞うようにしましょう。「ここでは英語を話さなければいけないのに、だれかスワヒリ語で話をしているぞ!」とか「君の日本語はネイティブ並みに上手だねえ、でも…」などと茶々を入れるくらいに止めておきます。日本語で話しているペアを止めさせる一番有効な方法は、話をしている生徒の後ろに黙って立ち、じっと待つことです。そうするだけで遅かれ早かれ(大抵はすぐに)生徒にあなたのメッセージは伝わります。加えて、アクティビティの目的についてや、これは後々の本番(テスト)のための練習なのだ、ということをいつも思い出させるようにしましょう。

以上でお解りのとおり、コミュニケーションサークルは単なる「先生の休憩時間」ではありません。先生は常にカウンセラー、監視員、診断医、情報源、通訳者、時には参加者の役まで担わねばなりません。コミュニケーションサークルは、こうした諸々の努力や引き受けねばならないフラストレーションに見合うだけの価値があるのでしょうか?私は自信をもって「YES!」とお答えします!最初はとまどっていた生徒達も、授業を重ね、年を経るごとに段々とこのアクティビティを心から楽しめるようになり、「英語をコミュニケーションツールとして使うことに自信がついた」と、コース終了時のアンケートに書いてくれたり、また私に直接伝えに来てくれたりします。成功は成功を呼び、コミュニケーションサークルの産み出すポジティブな雰囲気は、他のアクティビティにも良い影響をおよぼします。コミュニケーションサークルは、あなたのクラスを活性化するための起爆剤になれるかもしれません。早速、次回の授業でその効果を確かめてみては如何でしょうか?

付録:円滑なコミュニケーションのための八箇条

  1. スタート−まずあなた自身について話し始めるのが良いのか、それともパートナーに興味をもっていることを示すために質問からスタートするべきか?
  2. 興味を示す−あなたはいつもパートナー(床・先生・足元・窓の外ではなく)を見ていますか? 相手がしゃべっているのに、石のような表情をしていませんか?ボディランゲージ(うなずくなど)や関心を示す表現("Really?", "That's too bad!"など)や笑顔によって「相手に興味がある」ということをちゃんと示していますか?
  3. 反応−コミュニケーションするとき、「答えプラス三(事実・意見・質問)」を意識していますか?
  4. 順番に話す−一人の人ばかり話しをしていませんか?お互いが平等に話す時間をとっていますか?
  5. 考えている時間−会話が途切れたとき、沈黙してしまっていませんか?考えている時にも英語で相槌をうつためのフレーズ("Well...", "Let's see...", "Um...", "Er...")を使っていますか?
  6. 修正−間違えてしまった時、パニックになっていませんか?落ち着いて間違いを正し、頑張って話しを続けようとしていますか?
  7. エンディング−単に話しを止めるだけで会話を終えていませんか?パートナーに会話の終了を伝えるための表現(例えば、"Oh, I really have to get to going."など)を使っていますか?
  8. 誠実さ−あなたは真剣に、積極的にパートナーとコミュニケーションをとろうとしていますか? ただ形だけアクティビティをこなしている振りをしていませんか?
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